衆院選を控えた自民党総裁選で勝利し、岸田文雄首相率いる内閣が誕生して1カ月が過ぎた。政局と政権選択の選挙を乗り切った岸田首相は、続投の信任を得たと言える。新型コロナウイルスで傷んだ日本経済の再生に向けて、最大限の成果を生み出す政策の実現に腐心してほしい。
新型コロナの「第5波」が収束し、東京や大阪、神奈川など5都府県で続いた飲食店への営業時間短縮要請が先月下旬に解除された。飲食や旅行をはじめスポーツ、音楽ライブといった大型イベントの関連業界は経済活動を本格化させ、国内は解放感が漂う。
いま、多くの国民が期待しているのは経済の回復だろう。第2次岸田内閣は10日に召集される特別国会での首相指名後、正式に発足する。岸田首相は今月中旬にも、数十兆円規模と見込まれる経済対策をまとめる。
公約通り、目指す姿は「新自由主義」から「新しい資本主義」への転換だ。富裕層に集まっていた経済成長の果実を中間層に手厚く分配し、新たな成長につなげる「成長と分配の好循環」をうたう。
成長戦略として、科学技術立国に向けて10兆円規模の大学ファンドを設けるほか、経済安全保障を強化する。デジタル田園都市国家を築いて地方と都市の差を縮める、といった構想も打ち出す。
併せて表明した分配戦略には、子育て世帯への住居費・教育費の支援に伴う中間層の拡大と少子化対策、医師や看護師、保育士らの賃金引き上げなどを盛り込んでいる。
国民は、これまで示された岸田首相の経済対策を半信半疑で受け止めているようだ。共同通信社による1、2日の世論調査で、「期待できる」は53・2%だった。「期待できない」は42・2%で、これから注力すべき政策が岸田内閣の不支持率26・8%を大幅に上回ったことは懸念せざるを得ない。
期待値が伸び悩む理由として思い当たるのは、具体性の欠如とばらまき政策への不安だ。例えば、自動車の国内大手8社が発表した9月の国内生産台数は前年同月比5割減の39万8000台にとどまった。夏場に東南アジアで新型コロナが流行し部品調達が滞った。世界中で続く慢性的な半導体不足も影響している。
国内の主要産業として雇用を支える自動車メーカーの生産台数停滞の長期化は、経済回復の重荷になりかねない。中長期的に打つべき対策はおのずと見えてくるはずだ。
先の衆院選で、自民党の議席は公示前の276に届かなかったが、追加公認2人を含め261に達した。公明党の32を合わせ、与党で293を確保するなど安定した政権運営を担える環境は整った。
票目当ての聞こえがいい施策ではなく、腰を据えた政策立案が必要だ。コロナ禍で乱れた財政規律に後遺症を負わせぬ努力も求められよう。