埼玉県で暮らす女性は、縁もゆかりもない高知県のカツオだそうです。おいしかった、ただそれだけではありません。生産者の応援になったから、というのが理由の1つ。
商品を買うことで生産者や企業を応援する“応援消費”。コロナ禍を経て、広がっているようです。
窮地に立たされ涙する姿にもらい泣き
きっかけは新型コロナの感染の拡大でした。
忘れられない動画があるといいます。
高知県須崎市の会見で、漁業者が涙を流しながらこう訴えていました。
「おいしくて日本一だと自信を持っていても、食べていただかないと、廃棄処分になりかねない状況です。一生懸命、育てたカンパチを何とかしたいと思っています」(野見漁業協同組合 西山慶 組合長)

当時、問題となっていたのは養殖の魚。育ちすぎると売り物にならず、餌代もかかります。卸し先の飲食店が営業を自粛する中で、20万匹もの魚が行き先を失っていました。

「ひと事ではないなと感じました。(漁業者の訴えに)もらい泣きしてしまうくらいで、自分が購入することで少しでも助かるのなら、という思いでした」
同じような全国の一般消費者の協力で大量廃棄の危機は免れ、今はコロナ禍の影響も落ち着いてきているそうです。
しかし佐々木さんの“応援”はここで終わりませんでした。
その後も、SNSや生配信で漁業者などの奮闘ぶりが伝えられ、すっかりファンに。自分でもSNSで魚の魅力を発信したり、高知を観光で訪れて漁業者と交流したりするまでになりました。
佐々木陽子さん
「(漁業者の)人柄を知ったというのもありますし、命をいただくありがたさを感じているところにも感銘を受けました。スーパーで買うよりは高いけど、特別な時に買って協力をすることで、おいしいものが食べられる喜びがあります」
頑張りが報われてほしい
見せてくれたのはフライパンや、猫用のブラシ、国産の固形シャンプーなど。
購入するときポイントになるのは、商品を販売する会社の考え方や活動内容です。特にネットで買い物をするときには、こまめにチェックしています。
最近は国産の固形シャンプーを買いました。たぶん中の(担当の)人がおじさんで、一生懸命にやっていて、連絡もおじさん構文※で返ってきて。応援の気持ちで購入しています」
※おじさん構文…ネットを中心に絵文字やカタカナを多用した文章を指すとされる
今回、話を伺った際に木山さんは何回か「報われてほしい」ということばを使いました。かつて仕事を頑張りすぎて体調を崩し、退職したつらい経験からそう思うのだそうです。
「努力するだけではどうしようもないという経験があるから、そこを支える一部分になりたいって思うのかもしれません。
努力するのは当たり前だけど、苦しいこと、理不尽なことって多い。努力している人たちが報われるために、自分には大した力はないけど、その力の一部分にはなれるんじゃないかなって」
消費が自分を表す表現の1つに
「応援」をキーワードに掲げる通販サイトの運営会社は、消費に対する人々の意識の変化を指摘します。
マクアケ 坊垣佳奈 取締役
「コロナ禍になって自分の生活を見直したり、思考をめぐらせたりする時間も増えて、改めてどこに自分が稼いだお金を使うのがいいか考えた人が多いと思う。SDGsやエシカル(社会や環境に配慮する行動様式のこと)ということばが浸透してきて、消費行動も自分を表す1つの表現になってきていると思います」
コスパ意識にも“応援消費”は関係している?
コロナ禍でも「とにかく安くて経済的なものを買う」よりも「価格が品質に見合っているかをよく検討してから買う」という項目のほうが伸びています。
よく言う「コスパ」、かかったコストに見合うだけのパフォーマンスがあるかどうかを意識する人が増えているというのです。
一見、関係なさそうなこの「コスパ」意識からも“応援消費”の心理を読み解くことができるといいます。
「物自体の価値だけではなくて、情緒的なパフォーマンス、例えば『人の役に立った』という満足感や『困っている人を支えて日本の将来の景気を下支えしていく』という自負や安心感もパフォーマンスとしてとらえられているのではないでしょうか。
物価高で生活の負担がさらに増えれば応援消費に回せるお金は少なくなるかもしれませんが、人にはそれぞれ心の栄養のために削ってはいけない聖域があります。生活が厳しくなっても好きな物、これは私の生きる意味、みたいなところの消費は残るでしょう」
消費した理由から感じたこと
「誰かの力になりたい」
そう考えながら、自分が購入するものが作られるまでの過程にも思いを巡らせることで、よりよい商品が残り続けることの一助にもなるかもしれません。
そんな優しい消費の形が、これからも続いていってほしいと思います。
(ネットワーク報道部 石川由季)